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群馬大学大学院理工学府電子・機械類の藤井雄作教授によるViewpoint論文「Reframing Pandemic Preparedness: Why Positive-Pressure Exposure Control Merits Formal Public Health Evaluation」が、学術誌『JMIR Public Health and Surveillance』に掲載されました。本論文は、一般市民向け陽圧型電動ファン付き呼吸用保護具(powered air-purifying respirator:PAPR)による曝露制御を、将来のパンデミックに備えるための「公衆衛生上の正式な評価対象」として位置づけることを提案したものです。

<図 1 PAPR for Everyone:2020 年の提案から公衆衛生上の正式評価提言まで>
COVID-19では、行動制限・マスク・ワクチン接種と、医療崩壊を避けるためのロックダウンが主要な対策となりました。これに対し本論文は、感染成立に先行する物理過程である「感染性エアロゾルの吸入曝露」を、個人の呼吸域で直接低減する工学的介入を、第三の対策軸として正式に検証すべきだと論じます。
藤井教授は、パンデミック初期の2020年7月7日に一般市民向けPAPR「PAPR for Everyone(自由外出マスク)」の構想を発表しました。当時、この提案は新聞・テレビなどで広く紹介されました。その後6年間にわたり、低コスト試作、人口レベルの感染制御条件、呼吸状態推定、リアルタイム漏れ検出、時間管理型運用、プライバシー保護型ガバナンスに関する研究を段階的に公表し、関連する3件の国内特許を取得しました。本論文は、これまで主として工学分野で積み上げてきた成果を、公衆衛生分野における正式な評価の議題へ移す節目となるものです。
論文の概要
背景:陽圧型PAPRは、HEPAフィルターで浄化した空気を能動的に供給し、呼吸域を陽圧に保つことで、隙間からの未濾過外気の流入を抑える呼吸保護具です。原理と技術は既に確立されていますが、従来は主として医療従事者や産業現場向けの専門的・高価な装備として扱われ、一般市民による日常的使用を人口レベルの感染制御手段として評価する枠組みは形成されていませんでした。
提案:一般市民向け陽圧型曝露制御を、WHOおよび各国のパンデミック準備計画において「有効性に関する根拠の蓄積が必要な候補介入」として明示し、非緊急時から段階的な評価を開始することを提案します。即時導入や一律の着用義務を主張するものではありません。
評価項目:工学的性能(エアロゾル遮蔽、陽圧維持、CO₂排出、安定性)、個人レベルの感染予防効果、人口レベルの感染制御効果、安全性、装着継続性、実装可能性、社会的受容性、費用、公平性を、公衆衛生の枠組みの中で医学・工学を統合して検証する必要があります。
位置づけ:PAPRは病原体固有のワクチンや治療薬を待たず、感染性エアロゾルの吸入という共通の物理過程に作用します。したがって、未知の呼吸器病原体が出現した直後から利用できる可能性を持ち、社会活動を広範に停止する対策への過度な依存を減らす選択肢になり得ます。
本研究で示した主な論点
- APF 1000級の陽圧型PAPRは、所定の装着・作動条件下で吸入エアロゾル濃度を外気の約1000分の1まで低減できる可能性があり、高い個人防護性能を検証するための基準点となります。
- 一般市民向けPAPRの必要性能は一律にAPF 1000と決めるのではなく、病原体、曝露時間、着用率、装着継続性を踏まえて、個人・人口レベルの感染制御目標を達成する必要十分な水準を実証的に決めるべきです。
- 季節性インフルエンザ流行期などを利用したフィールド研究を開始し、性能・安全性・感染予防効果・社会的受容性を平時から評価する必要があります。
- 危機発生後に開発を始めるのでは遅く、一般市民向け機種の標準化、製造能力、部品・消耗品、調達・備蓄・配布体制を非緊急時に検討すべきです。
6年間に積み上げた関連研究
本論文は、2020年に提案した「自由外出マスク」構想を、公衆衛生の正式な評価課題へ押し上げるための総括的なViewpointです。関連する主要研究は以下のとおりです。
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- Fujii Y, Takita A, Hashimoto S. A Helmet Type Mask “Distancing-Free Mask”: An Engineering Solution that Eliminates the Lockdown, Journal of Mechanical and Electrical Intelligent System, Vol. 3, No. 3, 1–7, 2020.
https://jmeis.e-jikei.org/issue/archives/vol03_no03/F001/Camera_ready_manuscript_JMEIS_F001_535362_final.pdf [構想・工学的起点] - Fujii Y. An Engineering Alternative to Lockdown During COVID-19 and Other Airborne Infectious Disease Pandemics: Feasibility Study, JMIR Biomedical Engineering, Vol. 9, e54666, 2024.
https://doi.org/10.2196/54666 [一般市民向けPAPRの実装可能性] - Fujii Y. Examination of the Requirements for Powered Air-Purifying Respirator (PAPR) Utilization as an Alternative to Lockdown, Scientific Reports, Vol. 15, 1217, 2025.
https://doi.org/10.1038/s41598-024-82348-0 [人口レベルの必要条件] - Fujii Y, Takita A, Hashimoto S, Amagai K. Estimation of Respiratory States Based on a Measurement Model of Airflow Characteristics in Powered Air-Purifying Respirators Using Differential Pressure and Pulse Width Modulation Control Signals—In the Development of a Public-Oriented Powered Air-Purifying Respirator as an Alternative to Lockdown Measures, Sensors, Vol. 25, No. 9, 2939, 2025.
https://doi.org/10.3390/s25092939 [呼吸状態推定] - Fujii Y. The Real-Time Estimation of Respiratory Flow and Mask Leakage in a PAPR Using a Single Differential-Pressure Sensor and Microcontroller-Based Smartphone Interface in the Development of a Public-Oriented Powered Air-Purifying Respirator as an Alternative to Lockdown Measures, Sensors, Vol. 25, No. 17, 5340, 2025.
https://doi.org/10.3390/s25175340 [呼吸流量・漏れのリアルタイム推定] - Fujii Y. Time-Managed PAPR Use Enables a Balanced Approach to Infection Control and Personal Freedom, Scientific Reports, Vol. 16, 2878, 2026.
https://doi.org/10.1038/s41598-025-32625-3 [時間管理型運用] - Fujii Y. Reframing Pandemic Preparedness: Why Positive-Pressure Exposure Control Merits Formal Public Health Evaluation, JMIR Public Health and Surveillance, Vol. 12, e90211, 2026.
http://dx.doi.org/10.2196/90211 [公衆衛生政策としての正式評価の提案]
- Fujii Y, Takita A, Hashimoto S. A Helmet Type Mask “Distancing-Free Mask”: An Engineering Solution that Eliminates the Lockdown, Journal of Mechanical and Electrical Intelligent System, Vol. 3, No. 3, 1–7, 2020.
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関連特許
- 特許第7515044号「マスク装着状況・他者との接触状況の管理方法、管理システム」〔発明者:藤井雄作、橋本誠司、田北啓洋/登録日:2024年7月4日〕
- 特許第7653735号「呼吸空気浄化器具」〔発明者:藤井雄作、橋本誠司、田北啓洋/登録日:2025年3月21日〕
- 特許第7616624号「強制吸排気機能付きヘルメット型マスク」〔発明者:藤井雄作、橋本誠司、山口誉夫、田北啓洋/登録日:2025年1月8日〕
これまでの経緯
2020年7月7日、パンデミック初期にこの構想を提案したとき、私自身にとってPAPR for Everyoneの基本的な考え方はきわめて単純で、ほとんど自明なものでした。
空気感染のリスクがあるなら、人々の行動そのものを止めるだけでなく、一人ひとりが呼吸する空気を浄化するという選択肢があってよい。技術的に実現できるのであれば、社会で使えばよい――当初は、その可能性を示せば話は進むものと思っていました。
しかし、現実にはそう簡単ではありませんでした。
工学的にもっともらしいことと、公衆衛生上の対策として採用できることとの間には、大きな隔たりがあります。そして、その前に、この構想そのものを理解し、検討の対象としてもらう必要がありました。
そこで私は、一般市民向けPAPRは本当に実現できるのか、どの程度の性能が必要なのか、呼吸や漏れを計測できるのか、現実的な運用方法はあるのか、と一つずつ問いを分解し、査読論文として積み上げてきました。
6年を経て、ようやくここまで来ました。
まだ、「PAPR for Everyoneを採用すべきだ」と科学的に断言できる地点ではありません。
しかし、「検討する価値があるかどうか」から議論する段階は、もう越えてよいのではないか。
今回の論文が提案しているのは、その次の段階です。
さあ、実際に検証しよう。
どこまで感染リスクを低減できるのか。どのような条件なら社会で使えるのか。費用対効果はどうか。人々は受け入れるのか。そして、将来のパンデミックにおいて、行動制限を補完する現実的な選択肢になり得るのか。
それらは、議論だけで決めることではありません。測り、比較し、検証すべき問いです。
2020年の工学的な提案から始まったPAPR for Everyoneは、ようやく、公衆衛生として本格的に検証できるところまで来ました。
次は、検証する番です。
社会的意義
本研究の中心的な問いは、「次のパンデミックが起きてから新しい対策を探すのか、それとも平時の今、具体的で検証可能な候補介入を評価しておくのか」です。陽圧型PAPRは、ワクチン・治療薬・病原体の詳細な同定を待たず、吸入曝露という物理過程に直接作用します。
一方で、工学的な遮蔽性能が実生活でどの程度の感染予防効果を持つか、長時間装着が安全か、人々が継続的に使用できるか、費用やアクセスの公平性をどう確保するかは、まだ実証されていません。本論文は、こうした未解決点を理由に候補から除外するのではなく、正式な評価を開始する理由として扱うべきだと提案します。
2020年に提案した構想は、当初、既存の公衆衛生対策の分類に収まりにくい「制度的な無人地帯」にありました。その後、約6年間にわたり、試作、数理モデル、計測・制御技術、運用システムおよび特許化を段階的に進めてきました。本論文は、これらの蓄積を基礎として、一般市民向け陽圧型曝露制御を、公衆衛生上の正式な評価課題として初めて本格的に提示するものです。
掲載先
雑誌名:JMIR Public Health and Surveillance
公開日:2026年8月27日
題 名:Reframing Pandemic Preparedness: Why Positive-Pressure Exposure Control Merits Formal Public Health Evaluation
著者名:Yusaku Fujii(藤井 雄作)
論文種別:Viewpoint
URL:http://dx.doi.org/10.2196/90211
PDFファイル: https://publichealth.jmir.org/2026/1/e90211/PDF
研究費:JSPS科研費・基盤研究(B) 25K00735
【本件に関するお問合せ先】
〈研究に関すること〉
群馬大学 大学院理工学府 電子・機械類 教授 藤井 雄作(フジイ ユウサク)
TEL:080-3550-5585
E-MAIL:fujii@gunma-u.ac.jp
〈取材についてのお問合せ〉
群馬大学 桐生地区事務部 事務課 庶務係 広報担当
TEL:0277-30-1011
E-MAIL:rikou-pr@ml.gunma-u.ac.jp