強力なパートナーとしてのAI利用:
教育・研究・事務における共創のパラダイムシフト
茂木和弘
群馬大学大学院理工学府・理工学部理工学教育センター
本稿は、高等教育および研究機関における人工知能の役割が、単なる「自動化ツール」から「共創のパートナー」へと変容している現状と将来展望について論じる。ユネスコのガイドラインや国内のAI戦略に基づき、課題解決型学習やプログラミング教育における実践、さらにはデジタルツインや自律型ラボを活用した「AI for Science」への応用事例を提示する。AIを批判的思考を促進する「思考の鏡」として捉える人間中心のアプローチを強調し、大学運営のデジタルトランスフォーメーション、倫理的ガバナンス、そしてアカデミック・コミュニティにおける包括的なAIリテラシーの必要性について考察する。
キーワード:共創、人間中心AI、AIコンピテンシー、課題解決型学習、AI駆動研究、デジタルツイン、ハルシネーション、学問的誠実性
Utilizing AI as a Powerful Partner:
A Paradigm Shift in
Co-creation across Education, Research,
and Administrative Operations
Motegi Kazuhiro
Science and Technology Education Center, School of Science and Technology, Gunma University
This paper explores the transformative role of Artificial Intelligence in higher education and research institutions, shifting from a mere “automation tool” to a “co-creation partner.” Based on recent domestic strategies and international guidelines such as those from UNESCO, we discuss practical applications in project-based learning, programming education, and “AI for Science” involving digital twins and autonomous laboratories. The paper emphasizes a human-centric approach where AI serves as a “mirror of thought” to enhance critical thinking. Furthermore, it addresses the challenges of administrative digital transformation, ethical governance, and the necessity of AI literacy in the academic community.
Keywords:
Co-creation, Human-centered AI, AI Competency, Project-Based Learning, AI for
Science, Digital Twin, Hallucination, Academic Integrity
1 はじめに
教育・研究機関において、人工知能(Artificial
Intelligence: AI)はもはや単なる業務効率化ツールの一つとは言えなくなってきている。近年の大規模言語モデル(Large Language Models: LLM)の急速な高度化により、AIは「命令を受けて決まった出力を返す自動化ツール」から、「対話を通じて人間の思考を深化させるパートナー」へと進化を遂げつつある。我々にとって、この変化は、AIを単なる補助手段(ツール)ではなく、思考の外化(知識の理解や思考の過程や結果を外に表現する)と、洗練を支える「知的共創者(Intellectual co-creation partner)」として位置づけ直すことを求めている。
本稿は、教育・研究・事務の各分野においてAIをどのように戦略的に統合するかについて、その実践事例と課題を整理し、人間中心のAI統合を目指すことを目的とする。単にAIを導入するだけでなく、AIを思考を深める対話的パートナーとしての「思考の鏡(Mirror of thought)」および、AIを批判的思考を促す対話的パートナーとしての「壁打ち相手(Bouncing ideas
off AI)」として活用し、批判的思考や創造的発想を育む環境を構築するためのガイドライン案を示す。この案の中でAIとの関わり方を検討する際、最初に意識すべき重要なことは、AIを「代替(Substitute)」として捉えるのか、それとも「共創(Co-creation)」のパートナーとして位置づけるのかという点である。
このAIの位置づけを模索しながら、本稿は国内外の政策動向[1,2]、具体的な活用事例、そして倫理的・ガバナンス的課題について論じる。本論文の構成は以下のとおりである。第2節では国家戦略および国際指針との整合性を分析し、第3節では教育部門における活用を、第4節では研究部門における活用を述べる。第5節では大学運営のデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation: DX)と倫理課題について論じ、第6節で結論を述べる。
2 国家戦略および国際指針との整合性
2.1 日本の国家戦略:人工知能基本計画
令和7年12月23日に閣議決定された「人工知能基本計画」[1]は、日本社会全体でAIを使いこなし、「信頼できるAI」による日本再興を目指す国家指針である。同計画は4つの基本的方針を掲げている。第1の方針「AI利活用の加速的推進(AIを使う)」は、行政・教育・医療・産業が一体となってAIを普段使いする社会の実現を目指すものである。このためには、国民が安心して使える環境整備が必須となる。第2の方針「AI開発力の戦略的強化(AIを創る)」は、国産LLMやAI for Scienceの推進により、世界最先端のAI開発国を目指すものである。当然ながら、研究開発投資の強化と基盤モデルや計算資源の整備が必要になる。第3の方針「AIガバナンスの主導(AIの信頼性を高める)」は、AIの適正性を確保するガバナンスを構築し、国際標準を主導するものである。安全性・透明性・説明責任などを確保し、国際ルール形成に積極的に関与しなければならない。第4の方針「AI社会に向けた継続的変革(AIと協働する)」は、AIと人間が協働する「人間中心」の社会を実現し、AI社会を生き抜く人間力を向上させるものである。社会全体でAIと共存する仕組みづくりが必要であり、特に高等教育機関ではAIに関する教育・人材育成の強化が求められる。
この国家戦略が示す方向性は、教育・研究機関においても重要な指針となる。すなわち、機関全体でAIを戦略的に活用しつつ、適切なガバナンスと人間の主体性を維持する体制を構築することが求められている。
2.2 ユネスコ(UNESCO)の国際基準
ユネスコはDigital Learning Week 2025において、「AI and the
Future of Education(AIと教育:学習者の権利の保護)」と題する報告書[2]を発表し、「AIと教育の未来:混乱、ジレンマ、そして方向性」をテーマに、人間主導のAI統合への道筋を示している。同報告書によれば、世界の主要大学の約3分の2がAI利用ガイドラインを策定済みであり、教職員の90%が執筆やリサーチにAIを使用し、半数が授業運営にAIを試験的に導入している。ユネスコは、AIを「思考の鏡」として対人関係や共同作業を豊かにする方向でAI統合を進めることを提言している。
さらに、ユネスコは2024年に「AIコンピテンシー・フレームワーク」[2]を策定し、教員と学生双方がAIを使いこなす能力(知識、スキル、態度、属性、行動)を養うことを求めている。このフレームワークは、単なる知識としてのリテラシーを超えた、実践的なAI活用能力の育成を目指すものである。高等教育機関においては、このフレームワークを参照しながら、自機関の状況に応じたAIコンピテンシー教育計画を策定することが望ましい。
UNESCOの「AI and the Future of Education」(2025)と、日本政府の「人工知能基本計画」(2026)は、どちらも AI 時代の教育と社会のあり方を示す重要な文書だが、焦点の置き方や政策の方向性には明確な違いがある。しかし、どちらも人間中心の AI 活用、倫理と安全性の確保、教員支援、AI リテラシー教育の重要性を強調している。また、技術変化が速いことを踏まえ、政策の継続的な見直しや国際連携の必要性を認識している点も一致している。このため高等教育機関は、「教育の質・公平性・倫理(UNESCO)」を守りながら、「AI 活用・人材育成・研究開発(日本政府)」を推進する事が期待されると考える。
3 教育部門における活用
3.1 PBL(課題解決型学習)のワークフロー改革
PBL(Project-Based Learning)は、現実の課題を題材として学生が協働して解決策を探求する学習手法である。AIの導入により、PBLの各フェーズ(要件定義、アイデア、学習、評価)において学習の質と効率を飛躍的に向上させることが可能となっている(図
1)。要件定義フェーズでは、課題解決に必要な仕様をAIと共に詰めたり、複雑な仕様をAIで要約したりすることにより、学生が課題解決に必要な項目(仕様)を理解する速度が大幅に向上する。アイデアフェーズでは、AIがアーキテクチャの提案やプロトタイプを作成し、専門知識の不足による思考の停滞を解消できる可能性が高くなる。学習フェーズでは、バイブコーディング(Vibe Coding)などのAIを使用することで実装と設計を行き来する試行錯誤が可能になる。バイブコーディングは、自然言語でAIに指示をし、コードを生成するプログラミング手法である。(バイブコーディングがあれば「プログラミングを勉強しなくても良い」ことにはならないことに留意する必要がある。)評価フェーズでは、AIからの生成物を学生がどのように昇華させたかというプロセス評価が重要である。AIからの生成物をそのまま使用するのではなく、注意をもって確認し、また批判的に見ることが求められる。単に正解を出力することではなく、AIとの対話を通じて思考を深め、成果物の質を高める過程そのものを評価する。課題としては「動けば良い」で済んでしまうかもしれないが、より良い解決方法を模索する姿勢が学習者に求められる。ここが、AI時代の教育において特に重要な点と考える。
また、アダプティブ・ラーニングの観点から、学生が自らの理解度を確認し、学習計画を調整するパートナーとしてAIを活用することも重要である。UNESCO の「AI and the Future of Education」(2025)でAI が果たす 2 つの新しい役割として、「AI as Tutor(AI 個別指導者)」と「AI as Co-professor(AI 共同教員)」が挙げられている。学生からの質問や相談に対し、AI個別指導者またはAI共同教員が専門分野の質問に答えたり、関連する学術資源を提示したりするようなAI活用も有効であると考える。
3.2 AIによる自動採点とハイブリッド運用
AI採点システムの導入は、教員が高度な指導に注力する時間を創出する効果がある。群馬大学LMS(moodle)では、小テスト活動(○/×問題、多肢選択問題など)を利用すると自動採点が可能である。作文問題では、単語数、文字数、ターゲットフレーズの存在や数でしか自動採点できない。記述式問題にChatGPT等のカスタムモデルを使用すると、人間と遜色ない精度で採点可能である。また、プログラミング採点では構造的な類似性や特定の制約(再帰禁止など)の遵守を86%以上の精度で判定できることが報告されている。現在、Gradescope[7](採点支援プラットフォーム)、DEEP GRADE[8](ChatGPTを活用したAI自動採点)、Smarky[9](手書き答案のスキャンからAI採点)、カコテン[10](大学入試過去問の自動採点・添削)、UGUIS.AI[11](英作文の自動添削)等のサービスが実用化されている。
AIによる自動採点を効果的に運用するためには、AIにはスコアリングのみを担当させ、人間は「違和感のある箇所」のみを修正するハイブリッド運用が推奨される。このアプローチにより、採点時間が大幅に短縮されるとともに、記述式課題を積極的に出題できるようになり、学習効果の向上が期待できる。しかし、机上での評価に留まらず、授業実践に根ざした継続的な検証と改善が不可欠である。
4 研究部門における活用
4.1 AI for Scienceと自律型ラボ
研究開発分野では、「AI for Science(AI駆動型研究)」が急速に進展している[5,6]。自律型ラボ(ロボット×機械学習)により、実験設計からデータ生成までの好循環を形成し、研究プロセスそのものをAIとロボットが加速する試みが世界的な潮流となっている。JSTさきがけ(PRESTO)の「研究開発プロセス革新」領域[5]に代表されるように、電池、核融合、抗がん薬、国家安全保障等の戦略的分野でフロンティア級AIモデルの構築が進められている。物理・化学・生物学の言語を理解するAIが、人間の認知限界を超えた複雑現象の解明や新たな探索領域の開拓を支援することが期待されている[6]。
この流れは、従来型の「研究者がすべてを手動で実施する」スタイルから、AIとロボットが仮説立案・実験・知識統合のサイクルを自律的に推進し、人間は創造的な考察と判断に集中するスタイルへのパラダイムシフトを示している。ただし、計算量の制限やデータの結びつきの解釈において、依然として人間の専門的知見による評価が不可欠であることも忘れてはならない。
4.2 文献調査・分析ツールの活用
AI支援による文献調査ツールの充実は、研究者の情報収集・整理業務を大幅に効率化している。SciSpace[12]は論文検索から要約、対話による内容理解までを統合したオールインワンツールであり、Elicit[13]は特定の研究課題に対し膨大な論文群からエビデンスを自動抽出してテーブル形式で整理する。Consensusは科学的な合意形成状況を可視化・要約する機能に優れている。また、Google
NotebookLM[14]やMicrosoft Copilot Notebooks[15,16]は強力な検索拡張型生成AI(Retrieval-Augmented Generation: RAG)ツールの一つであり、ユーザーがアップロードした資料(独自の知識)のみを基に回答を生成できるため正確性を高められる。これらのツールを組み合わせることで、文献調査時間を大幅に短縮し、創造的な考察に集中することが可能となる。
4.3 デジタルツインの研究への応用
Vibe Codingに代表される自然言語による対話でコードを生成・テスト・洗練させる手法は、研究開発速度を飛躍的に高める。製造、物流、管理、医療等の分野においては、デジタルツインによる仮想検証が重要性を増している。デジタルツインは、実機の状態(実空間)を仮想空間にリアルタイムで再現し、双方向で同期・検証を行う技術である(図
2)。その構成要素は、運動学・動力学・質量分布を正確に再現する「物理モデル」、実機の状態を仮想に反映する「センサデータ」、物理演算で挙動を検証する「シミュレーションエンジン」、低遅延での双方向同期を実現する「通信インタフェース」の4要素から成る。例えば製造現場においては、複数ロボットの干渉チェック、受け渡しタイミング検証、最適化実験、設計検証、保守予測、学習データ生成といった多岐にわたる用途に活用される。
さらに、変分オートエンコーダ(Variational
Autoencoder: VAE)と潜在空間ベイズ最適化(Latent Space Bayesian
Optimization: LSBO)を組み合わせた手法は、分子構造・高分子などの高次元・離散・構造化データの最適化に有効であり、材料科学や化学分野での新材料探索に応用が進んでいる(図
3)。LSBOは、生成モデルによって構築された潜在空間を探索領域として利用することで、従来の最適化手法では扱いきれない高次元かつ非線形な設計問題に対して、新たな探索戦略を提供する枠組みである。本稿では、LSBOの詳細理論には踏み込まず、その応用可能性の概観にとどめる。
材料科学の分野では、分子構造や結晶構造を潜在空間に写像し、その空間上で物性値を指標とした最適化を行うことで、従来の組成探索では到達しにくかった新規材料候補を効率的に抽出できることが示されている[17,19,20]。このアプローチは、材料の逆設計を「連続空間における関数最適化」として再定式化する点に特徴があり、探索の滑らかさと多様性の両立を可能にしている。
創薬分野においても、LSBOは分子生成モデルと自然に結びつき、薬効や毒性といった複数の特性を同時に考慮した分子設計を実現する手法として注目されている。初期の研究では、VAE によって構築された潜在空間上でベイズ最適化を行うことで、化学空間の広大さにもかかわらず、目的関数の高い分子を効率的に見つけられることが報告されている[17,18,21,22]。この枠組みは、探索の効率化だけでなく、潜在空間の幾何構造を利用した分子の連続的操作を可能にし、従来の離散的な分子探索とは異なる設計体験を提供する。
工学設計の領域では、形状や構造を生成モデルで潜在空間に埋め込み、その潜在表現を最適化することで、軽量化や強度向上といった設計目標を達成する試みが進んでいる。特に、深層生成モデルとベイズ最適化を統合した設計手法は、形状空間の複雑さを潜在空間の滑らかさに置き換えることで、従来の最適化アルゴリズムでは探索が困難であった領域に踏み込むことを可能にしている[23]。このような潜在空間の活用は、設計対象の表現そのものを学習によって獲得するという点で、従来の工学最適化とは質的に異なるアプローチである。
また、LSBOの応用は科学技術分野にとどまらず、画像生成や音声生成といったメディア生成の領域にも広がっている。生成モデルの潜在空間において、美的評価やユーザー嗜好を目的関数として最適化することで、従来のルールベースでは捉えきれなかった「主観的品質」を定量的に扱うことが可能となる。さらに教育分野においては、学習者の行動データや教材の特徴量を潜在空間に埋め込み、学習効果を最大化する教材設計や学習パスの最適化に応用できる可能性がある。このように、LSBOは「潜在表現を探索する」という新しい視点を通じて、多様な領域における最適化問題の再構築を促している。
5 大学運営のDXと倫理的課題
5.1 校務DXによる組織運営の高度化
大学運営におけるDXは、教育・研究支援のみならず、事務部門においても着実に進んでいる。時間割の調整、座席配置の自動生成、多言語問い合わせへの自動応答、会議議事録の要約、通知文の作成などの業務をAIが支援することで、教職員がより創造的な業務に集中できる環境が整いつつある。文部科学省は令和7年6月に「教育DXロードマップ」[3]を策定し(小学校・中学校・高等学校対象)、また「次世代公務DXガイドブック」[4]を公表するなど、教育機関全体のDX推進に向けた政策的支援が本格化している。高等教育機関においても、これらの施策を参照しながら、独自のDX戦略を策定することが求められている。
5.2 リスク管理と倫理的課題
AI統合を推進する上で、表1に示すリスクへの対策が不可欠である。特に「質の低い研究アウトプット(いわゆる“リサーチ・スロップ”)」への懸念は重要である。リサーチ・スロップとは、生成AIを駆使して大量に作成された中身のない情報やレポートを指す。これは生成AIツールそのものの問題ではなく、AIからの回答を適切に評価・活用できない能力不足が根本原因である。スロップを防ぐためには、高度な情報リテラシーとプロンプト設計能力の育成が不可欠である。批評的思考(Critical Thinking)によって誤りやハルシネーション、バイアスを識別する能力、複数のAIの回答を合成・統合する能力、そしてAIにはない直感、ユーザの視点、創造性でAIの不足分を補う能力が求められる。
表 1 生成AI利用に伴う主なリスクと対策
|
リスク項目 |
内容と課題 |
具体的対策 |
|
ハルシネーション |
誤情報を生成する可能性があるため、誤ったデータや数式の使用はリスクが大きい。 |
専門知識に基づく徹底したファクトチェックを実施し、科学的真実性を担保する。[1,2] |
|
バイアス |
学習データに含まれる社会的偏見を再生産・増幅するリスクがある。 |
批判的視点を養うリテラシー教育を実施し、公平性と倫理性の維持を図る。[1-3] |
|
学問的誠実性 |
レポートや論文でのAI利用において、透明性が欠如するリスクがある。 |
利用箇所の明記と透明性の確保に関するガイドラインを策定・運用する。[2,3] |
5.3 ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)の重要性
AIシステムの信頼性を担保するためのアプローチとして、ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-Loop: HITL)が注目される(図
4)。HITLは、学習用データの収集・前処理、AIモデルの学習・作成、作成したAIモデルの検証、AIシステムの運用・監視の各フェーズに人間が介在し、品質保証・精度向上・稀な事例(エッジケースやコーナーケース)への対応・倫理性と公平性・信頼性を確保する仕組みである。さらに、HITLを超えた「思考のパートナー」としてのAI活用では、人間はループの外に立ち、AIを思考の鏡や壁打ち相手として活用する。AIに反対意見を述べさせたり論理の欠陥を指摘させたりすることで、人間の批判的思考を研ぎ澄ます効果が期待できる。「人が問を立て、AIで情報を統合し、AIと対話し、人の理解を深める」サイクルが、これからの知的活動の基本形となっていくであろう。
6 まとめ
本稿は、教育・研究機関における「AIとの共創」での導入について、教育、研究、大学運営の各分野における具体的な活用事例と課題を示した。AIは知の量(効率化)を圧倒的に提供するが、知の質(創造性)を決定し、問いを立てる主導権は常に人間にある。我々が常に主導権を握るには、AIリテラシーを知識として習得するだけでなく、主体的に使いこなすAIコンピテンシーを組織文化として定着させることが、今後の教育・研究機関が歩むべき方向である。プログラミングやPBL等の科目においても、AIを「答えを出す道具」としてではなく、「思考を深め、試行錯誤を加速するパートナー」として活用する教育実践が求められる。教育の起点は常に人間であり、AIをツールとして使いこなし、学習の質を高める主導権は教員と学生が持つべきであると考える。
最終的に問うべきは、「あなたの替わりはAIで十分ですか?」という問いへの答えである。この問いに自信を持って「否」と言える、AIを最高のパートナーとして乗りこなす人間を育てることこそが、これからの高等教育機関に課せられた使命であると考える。AIという強力な思考の鏡を通じて自己の思考を磨き、創造性を解放する人間中心のAI社会を、ともに構築していきたい。可能であればAIを利用するが、AI以上に信頼できる人間のパートナー(教員や友人等)が大学にいることが重要である。
本稿の議論が、今後の理工系教育におけるAI活用の基盤の一助となれば幸いである。
謝辞
本稿の作成にあたり、理工学教育センターの教職員の皆様からいただいた貴重なご意見に深く感謝申し上げます。また、第4回YUSUI講演会[24]における議論は、本稿の内容に多くの示唆を与えてくださいました。
参考文献
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[7] “Gradescope(グレードスコープ) | デジタル採点の学習評価プラットフォーム | Turnitin(ターンイットイン).” Accessed: Mar. 26, 2026. [Online]. Available: https://www.turnitin.jp/products/gradescope/
[8] “DEEP GRADE | ChatGPTを活用したAI自動採点.” Accessed: Mar. 26, 2026. [Online].
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[11] “英検Rライティング・大学入試英作文対策のUGUIS.AI.” Accessed: Mar. 26, 2026. [Online]. Available: https://uguis.ai/
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[13] “Elicit: AI for scientific research.” Accessed: Mar. 26, 2026. [Online]. Available: https://elicit.com/welcome
[14] “Google NotebookLM | AI リサーチツール&思考パートナー,” Google NotebookLM. Accessed: Mar. 26,
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[15] “Microsoft 365 Copilot ノートブックのしくみ – Microsoft サポート.”
Accessed: Mar. 26, 2026. [Online]. Available: https://support.microsoft.com/ja-jp/topic/microsoft-365-copilot-%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E3%81%97%E3%81%8F%E3%81%BF-4071d73d-8bdd-478f-8968-8dc1d7c3d43e
[16] “Microsoft 365 Copilot ノートブックの概要 – Microsoft サポート.”
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