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国立大学法人群馬大学 理工学部・大学院理工学府
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理工学教育センター紀要

紀要2025-分野横断型PBL科目『課題解決セミナー』における学生相互評価の分析

分野横断型PBL科目『課題解決セミナー』における学生相互評価の分析

—2段階発表会による評価眼の変容と自己改善サイクルの構築 

群馬大学理工学府理工学部 理工学教育センター 佐伯俊彦

【序論】

 群馬大学理工学部は、「分野にとらわれない、幅広い知識や考え方を身につけた理系人を育成する」ことを目的として、令和3年度に改組した。その目的を達成する一つの柱としてPBLProject/Problem Based Learning)教育が始まった。「課題解決セミナー」は「課題発見セミナー」「プロジェクト参加研究」とともにPBL教育を構成する科目の一つである。

 「課題解決セミナー」は「プロジェクト参加研究」と合わせて従来の卒業研究に相当する。本セミナーは異分野交流を通じて俯瞰的問題解決能力を習得させることを目的として「プロジェクト参加研究」に先立ち、実施する。そのため、テーマは卒業研究そのものである必要はなく、1)卒業研究テーマに関すること、2)3年生までの講義・学生実験テーマ・学生実習テーマ・2年生の課題発見セミナーに関すること、3)社会的課題から卒業研究テーマの提案、4)製造法・工法・測定法・分析法など、など多岐にわたる。これらは、研究の背景とアプローチを論理的に提示する点で博士後期課程の「リサーチプロポーザル」に近い性格を持つ。学部内の全学生・教員が入り混じる場でのプレゼンテーションを通じて、自身の取り組みを俯瞰的に記述し、他者へ提案するスキルの育成を意図したものとなっている。

 改組後初の対象学生が4年となった令和6年度、本セミナーが初開講された。当初は分野横断型発表会が2回も追加となることへの戸惑いも見られたが、2年目の令和7年度はガイダンスを経て、6月に中間、9月に成果発表会を実施した。学生は24会場に分かれて発表を聞きあい、良いと思った発表3つを選び理由とともに報告した。本報告ではこのデータを分析し、2回の発表会が学生の学び(異分野理解と発表改善)にどう寄与したかを明らかにする。 

【方法】

 24会場で各20名が発表し、自分以外のベスト3を理由とともに選出させた。各会場に配置された4〜5人ずつの教員も、所属や専門分野が偏らないように調整された。まず相互評価の妥当性を検証するため、発表順や会場によるバイアスの有無を確認し、得点分布を箱ひげ図で比較した。箱ひげ図は、箱の上端と下端が、それぞれデータを多い順に並べたときの 25%, 75% の範囲を表す。中央値は太い実線で表される。箱の上端から箱の高さ X
1.5
の範囲にある最大値をひげとして描き、それよりも大きい値を、上側外れ値として点をプロットする。下側も同様である。

本報告の核心である評価観点の変化を、自然言語処理技術(NotebookLM)を用いてカテゴリー化した。


【結果と考察】

1.評価の妥当性と客観性の検証

 発表順の影響について、中間発表会では開始直後や休憩直前の発表に評価が集まる傾向があったが(図1A)、成果発表会では偏りが緩和され、発表順によらない評価がなされていた(図1B)。また、会場ごとの評価分布にも、評価ができていないことをうかがわせるような極端なパターンは見られず、いずれも一定の緊張感を持って相互評価が行われたと判断した(図2)。

 

2.聴衆の深化 〜2回の発表会を通じた学生の変化〜

 中間発表から成果発表への得点の変化を表1に示した。448名中、得点が伸びた学生は181名(40.4%)、下がった学生は161名(35.9%)であった。得点が変わらなかった106名(23.7%)の学生の中には、どちらも0点だった学生が26名(5.8%)存在した。得点が伸びた学生の割合に所属分野による差はなかったが、下がった割合は物質・環境類、変わらなかった割合は電子・機械類にやや多い傾向があった。

 

 次に、本報告の核心である「発表会を2回行う意義」について、ベスト3に選んだ理由の『観点』がどのように変化したかに注目して考察する。

 中間発表会では、内容の深さよりも「流暢なプレゼンテーション」や「準備の良さ」を評価する声が目立った。これは、学生自身がまだ評価の基準を持ち合わせておらず、外見的なスムーズさを指標としたためと考えられる。

 しかし、成果発表会では評価の質が転換した。「実際に研究した体験を話しており異分野に入り込みやすかった」という記述に見られるよう、理解度に裏打ちされたスムーズさが評価の対象となった。また「図表の活用で把握しやすかった」「異分野向け用語で参考になった」など、「専門」的な内容が「わかりやす」く説明されているとの声が中間発表では16件だったものが成果発表で26件に増えていた。さらに単なるデータの蓄積以上に、中間発表からの「改善の跡」や、自身の理解に基づいた「質疑応答の柔軟さ」が重視された。特に中間発表では「スラスラ」を含むコメントが6件あったが成果発表では1件となり、「工夫」(1325件)「伝わる・伝える」(511件)など、「スラスラ話せることよりも、伝える熱意と工夫が大切である」といった主旨のコメントが増加したことは特筆すべきである。

 これらは学生の「眼」が肥え、クリティカル・リスニング能力が向上したことを示している。発表者側も中間発表会の経験を反映させることにより、研究を客観視し深化させる機会を得たと言える。

【結論】

 学生相互の評価から、2回の発表会を通じた自己改善の姿勢が鮮明になった。「回答用の図を準備しており見習いたい」といったコメントは、学生が継続的なブラッシュアップの重要性を自ら発見した、アクティブラーニングの成果である。

 中間発表会では形式的な「流暢さ」が評価されたが、成果発表会では発表者の理解度の高さに裏打ちされた「流暢さ」を評価する声が多くなった。原稿の読み上げではない自分の言葉で説明する姿勢や、質疑応答における柔軟な対応力が評価された。研究そのものの進捗状況についての評価にも注目すべきで、継続してテーマを追求することが有利に働く傾向が見られた一方で、単にデータを蓄積することでは良い評価は得られていなかった。

この評価をフィードバックできれば、「プロジェクト参加研究」に向けさらなる成長が期待できる。本セミナーはリサーチプロポーザルに近い性格を持つが、異分野の人に配慮した発表を高く評価した学生は、それが専門家向けとは異なるプレゼンテーションであることを明確に認識していたと考えられる。

両回とも評価を得られなかった26名(5.8%)の学生は教員の評価も高くはなく、このような学生への動機付けは今後の課題である。また教員の評価が良かった(平均9点以上)発表で学生の評価が0点だったものが3件あった。もし、わかる人にしかわからない発表を高く評価したのであれば、異分野の人にわかるように発表するという「課題解決セミナー」の目的をもう一度見つめ直す必要があろう。

本解析により、2回の発表会設置は、単なる機会の倍増ではなく、学生の評価眼を養い「自己改善サイクル」を機能させる意義があることが明らかとなった。

謝辞:本解析に用いたデータをGoogle formsからスプレッドシートにまとめてくださった、理工学教育センターの大橋早智子さんに感謝いたします。

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